欧州の想い出 「修める」 -Day 2-
人生に後悔はつきものである。
小さなことから大きなことまで、何をするにしても選択と決断を迫られる日々だ。
その中には、自分なりに根拠を持って決めたこともあれば、直感だったり、単にラクな道を選ぶことだってある。
後になってそれが最適解ではないとわかっても時既に遅し、自分の選択を受け入れるしかないのもまた人生である。
人は一生そんな葛藤と付き合っていかなければならない。ましてや、適当に生きている僕なんて後悔の連続である。
ロビーに集合し、イングリッシュブレックファースト(と言ってもただの洋食だが)をいただき、行程開始。
Waterlooのホテルからはテムズ川に沿って歩き、タワー・ブリッジを目指す。
タワー・ブリッジは個人的にイギリスを象徴する風景の一つである。
僕はイギリスのプロダクトには以前から心惹かれているのだが、理由を考えてみても、感性で好きなものの理由を言語化するのはほぼ不可能である。
とはいえ、その中の一つは”Quality”である。
愛用している英国製のシャツも、ジャケットも、シューズも、ウォレットも、バッグも、所有者にしかわからないレベルでとにかくディテールが凝っている。いや、知らなければ所有者にすらわからないかもしれない。凝っていると一言で片付けるのはもったいないほどのオーバークオリティだ。
一方でコスト度外視でものづくりに真剣に勤しむため、ブランディングも含めてビジネスとするのが極めて苦手なのも、イタリアやフランスの高級ファッションブランドと明確に違った英国製品の魅力である。
そんな人の持つ純粋な心が追求した素晴らしいプロダクトがイギリスには人知れずあるのだ。
さて、タワー・ブリッジはどうだろう?
何の美的感性の無い人間がひと目見れば、「なぜただの橋をこんな豪華に?」と感じるだろうし、僕だって理由は知らない。
でも、人々を惹きつけているのだからそれが理由で十分ではないか。
人間は人間のために行動する生き物である。
タワー・ブリッジのすぐ隣にあるのはロンドン塔である。
ロンドン塔は11世紀にウィリアム1世によって築かれた要塞である。
11世紀って、1000年近く前には遠いイングランドではこんなものが建てられていた。
日本が「いい国作ろう」とか言ってた時代である。…いや、言ってはないか。
もともと王宮として使われていたが、その後は監獄として数々の人が処刑された場所でもある。
いわゆる、”栄光と悲劇”を今に伝える役割を持っており、内部も見学出来たり、展示物が数多くある。
それにしても、首都であるロンドンの中心部に、1000年近い歴史を持つ建造物が当たり前のように残っているところが、欧州の凄みである。
ありきたりな日本人らしい感想であるが・・・
その後は地下鉄を利用して大英博物館へ向かった。
大英博物館といえばいろいろあるが、時計好きである僕にとってはやはりコレだろう。
大英博物館の第38・39室である時計展示室(Clocks and Watches)だ。
時計好きにとって、ジュネーブの「PATEK PHILIPPE MUSEUM」、ラ・ショー=ド=フォンの「国際時計博物館」、そしてここ大英博物館の「第38・39 時計展示室」が世界三大時計博物館、いわゆる聖地であることは常識である。
…と言うよりも、ここを訪れずして時計好きを名乗ることなど許されない、とも言える。
というわけで、ようやくここを訪問出来たことで”時計好き”としての一歩を踏み出せたとも言えるだろうか…
個人的な話はさておき、かつてはイギリスもスイス、ドイツ、フランスと並び時計業界での激しい競争下にあった。
イギリスはその中でも時計技術の発展に重要な役割を果たし、技術的に優れた時計や視覚的に興味深い時計など、とにかく歴史的価値のある貴重なコレクションがここにはいくつも展示されている。
とにかく、初めてここを訪れることが出来て感涙モノである。
本来であれば大英博物館の見どころは他にもたくさんあるのだろうが、残念ながら紹介できるほどの知識は持ち合わせていない。
もう少し予習しておけばよかったかもしれない…旅にも後悔はつきものである。
その後は大英博物館内の軽食コーナーで食事を済ませ、大英博物館前のスターバックスで一息ついた。
ところで、僕はコーヒーという飲み物は眠気覚まし程度にしか興味が無いので、日本にいるときもスターバックスには全く行かない。なので種類もわからなければ注文方法もわからないのだが、不思議と異国のスターバックスではスムーズだった。日本のスターバックスでは何を頼むか一生悩んでいたことだろう・・・
この日は朝から情報のインプットばかりだったので、そろそろアウトプット(出費)の頃合いだ。
Regent St.は高級ブランドからファストファッションブランドまで一通りが建ち並ぶショッピング街。
遠く離れた異国の地であっても、建ち並ぶブランドは大抵見慣れたもの。
現代社会ではみな似たようなものを食べ、似たようなものを着て、似たような娯楽を楽しんでいる。
そうは言っても、ここでしか買えないものも数少なく存在はしている。
「Superdry極度乾燥(しなさい)」というブランドは意味不明な日本語が使われつつも、イギリス発祥でイギリス国内では結構メジャーなアパレルブランド。
実際、ロンドンで街ゆく人を眺めているとかなりの着用率である。価格帯はダウンジャケットが2万円程度と、手頃なファストファッション系だ。
イギリスのファッションといえば、サヴィル・ロウでビスポークするシルエットの堅いスーツ、Turnbull & Asserのドレスシャツ、John Lobbのストレートチップ…何もかも格調が高くそれ相応の価格がするものばかりイメージするのだが、当然イギリス人だって買えるのはごく一部の選ばれた人だ。
日本だって着物で歩いてる人なんてほとんど見かけないように、異国の人間がイメージすることなんて大抵そんなものだろう。
遠く離れたイギリスの地でも同じ人間、着ているものは日本と似たようなものである。
Superdry極度乾燥(しなさい)はイギリスブランドでも数少ない気軽に買える価格帯のため、散々店内を見たのだが、ピンとくるものが無く買わなかった。
今にして思うと、旅の思い出程度にジャケットの一つくらい買っておけばよかったかもしれない。
結局、人生に後悔はつきものである。
(続く)