北海道ツーリング2024 6日目
6日目。
釧路で迎える朝も快晴だった。
いつもはなんとなく内陸部、阿寒湖などに立ち寄りつつ西進することが多いのだが、今回は久々に太平洋に沿って走ることに決めていた。
以前訪れた好きな場所の再訪と、新たなる風景を求めて・・・
釧路港には大きな客船が停泊していた。
「Seabourn Odyssey」という客船で、全長198m。今の時代では決して大きな客船ではないが、アラスカのDutch harborから来ているらしい。
R38を西進し、道の駅 しらぬか恋問。
小さな木製の展望台のある道の駅は、1992年にオープン。
老朽化もあり、現在の場所から700mほど別の場所に移転工事が進められており、2025年4月にオープン予定とのことで、現在の姿を見るのは最後だろう。
豚丼が名物らしいので朝食がてら食べようかと思っていたが、残念ながら営業時間前だった。
気持ち良い気候の下、R38をのんびりと流しながらいくつかの街を超え、音別へ。
音別のセイコーマートに立ち寄り、この時期になると発売される月見やきとり丼を朝食とした。
ところで、ボクスターはサイドシルがそれなりに太くて高さがあるので、ちょうど良いベンチ代わりになる。
これはツーリングでは小休止したり食事するのに重宝するシーンが案外多く、気に入っている機能(?)の一つだ。
マクラーレンとかならさらに太く高いサイドシルとディヘドラルドアも相まって、もっと座りやすいのだろうか?いや、そんな使い方をする人はいないか…
などと、くだらないことを考えながらのんびり座って食事をしていたら、セイコーマートの店員のおばさまに「これはプジョーですか…?」と声をかけられた。
聞くに、孫がクルマ好きで自動車メーカーのロゴを覚え(させられ)ているのだそう。
思い返せば、自分自身も物心ついた頃からクルマが好きだった。
縁もゆかりもない遠く離れた音別の街でなんとなく親近感を感じながら、今こうして大人になり、好きな車で好きな場所を走れている幸せを改めて噛み締めた。
R38に別れを告げ、d1038で海岸線へ出る。
この道は交通量も僅少で、雄大な太平洋を眺めながら流せるシーサイドライン。
それゆえ、前回訪れた2015年は高波の影響で通行止めになっていた。
のんびり海を眺めていたら、偶然向こうから特急 おおぞらがやってきた。
波音だけが響いていた風景に、走行音を加えて一瞬で過ぎ去っていった。
そのまま鉄道に誘われるように、厚内駅へ立ち寄った。
駅ではJR北海道の係員が点検をしていた。
上りが1日7本、下りが1日6本だけの無人駅。1日の乗降平均人数は10人以下。
2面3線のホームはかつては貨物を取り扱っていた名残だろうか。確かに栄えていた時代があったのだろう。
跨線橋から南東方向を見ると、海が見える。
線路が大きくカーブしているのは、かつての根室本線の計画ではそのまま海沿いを辿る計画だったそうだが、諸々の事情で現在の内陸で峠を越えて浦幌町へと向かうルートになったのだとか。
駅舎の片隅にひっそりと咲くコスモスが綺麗で、思わずシャッターを切った。
今年は例年以上に灼熱の夏だったが、いつの間にか北海道では秋が始まっていた。
旅を続ける。
再び海沿いのd1038に復帰し、南下する。
この道もかつては波を被るほど海が近かったそうなのだが、今ではきちんと護岸工事がされておりその心配も少なそうだ。
それでも、依然として低いガードケーブルのお陰で海がよく見えて気持ちの良いシーサイドドライブができる。
さ、厚内トンネルを抜けたら、いよいよダート路を駆け上がる・・・
昆布刈石展望台。
展望台と言いつつアクセス路はダートだし、駐車場も立派なお立ち台も無ければ看板が一つ立っているだけ。
決して観光地としてはオススメできない。
でも、この素朴なアプローチが旅情を掻き立て、そこに広がる風景にはただただ息を呑む。
先ほど通ってきた厚内トンネルが見え、さらに海側には2008年に現在のトンネルが開通するまで使われていた旧厚内トンネルも見える。
旧厚内トンネルは片側交互通行の1車線トンネルだったそうだ。
さらにその昔、1950年代はこの道もR38の一部で、釧路へと向かう幹線道路だったそうだが、今となってはその名残は数少ない。
展望台で景色を眺めていると、エクシーガが来た。
静岡から来て一人で旅をしているといおじさんは、暑くなったら北海道を訪れ、涼しくなった10月頃に帰るという数ヶ月の旅をしているらしい。なんとも羨ましい限りだ…
この日は晩成温泉から来たそうで、これからどこへ行くのか尋ねたのだが、それを考えるためにここへ立ち寄った様子だった。
ボクスターは砂埃を巻き上げながら、引き続きダート路を先へと進んでいく。
遥か先には日高山脈が見える。きっと襟裳も快晴だろう。
さぁ、襟裳岬を目指そう…。
ダート路を走り抜け、R336 通称ナウマン国道に復帰する。
ナウマン国道で最も好きなシーン。
遥か先、黄金道路まで見渡し、この先の旅路に期待感が高まる瞬間だ。
十勝川の河口を渡り、d1051へと舵を切る。
行き止まりの標識が立つこの先には、湧洞湖という大きな湖がある。
そこを目指して、アクセルを踏み込んだ。
森を抜けて看板も無い海岸に車を停め、少し歩くと荒廃した見晴台がある。
あまりに草が生え放題で諦めかけたものの、この景色を見ずして去るわけにはいかず、草木を漕ぐようにして小さな丘を登った。
そこからの眺めが・・・
これである。
左が太平洋、右が湧洞湖。左下にボクスター。
海と沼を隔てる僅かな砂州の間を、なだらかに起伏の付いた道が続いているのがよくわかる。
展望台への道はだいぶ朽ち果ててしまっているが、そこから望む風景は素晴らしい。
頑張って草木を漕いできた甲斐があった。
d1051は行き止まりだが、砂州の先端まで道は続いており、小さなパーキングがある。
対岸には手付かずの森林や湿原が広がっている。
湧洞湖はアイヌ語の「ユト(yu-to)」(湯・沼)に由来しているらしく、近くには有名な晩成温泉もある。
多くの自然が残されており、エンジンを止めればそこには静寂だけがあった。
素晴らしい青空の下、ここに来られて満足だった。
湧洞湖を離れ、ここからはR336で一路襟裳岬を目指す。
広尾の町を抜けると、黄金道路が始まる。
昔は交通の難所とされ、日高山脈が海岸まで迫っていたこともあり、黄金を敷き詰められるほど道路建設に莫大な費用がかかったことから「黄金道路」と呼ばれている。
がしかし、それでも高波や土砂崩落等で通行止めになることが多く、改良に改良を重ねた今となってはトンネル区間がかなり多い。
つまり、さらに建設費はかかっているだろうから黄金道路というより”ロジウム道路”とか呼んだ方が適切かもしれないが、触媒を思い浮かべてしまい途端に有り難みが薄れてしまう。
そもそも、驚くような技術を用いた巨大土木工事が多い現代となっては、正直なところ”黄金感”はあまり感じられない。
トンネルが多く旧道も封鎖されている箇所が多いのはやや残念なものの、そうは言っても適度な曲率の道をのんびりと流していれば気持ち良い。
d34へと入れば、襟裳岬はいよいよだ。
初訪問の襟裳岬。
“岬好き”にも関わらず、なかなか機会に恵まれななかったのだが、ついに訪れることができた。
それに、強風のイメージが強い襟裳岬だが、今日は少し汗ばむ陽気に時折吹くそよ風が気持ち良い絶好の天候じゃないか。
来てヨカッタ・・・
襟裳岬灯台は少し引いた場所の芝生の広場に立っている。
地面が割と高い位置にあるので、灯台自体の高さはそれほどではないが、形状はとても綺麗な姿をしている。
襟裳岬は日高山脈の先端であり、山脈がそのまま海に続いている。
それはこの風景を見れば、実感することが出来るだろう。
日高山脈が海中へと続き、山脈の頂上だけが海面から姿を現している。
数日前に日高山脈の北限とされる北見神威岬へ立ち寄ったので、これで日高山脈の北端と南端を訪れたことになる。
先端に向かって歩くと、みさき荘という旅館があった。
どうも営業している気配は感じられないが、最高のロケーションである。
襟裳岬の突端という看板が立っていたが、さらにその先端まで続いている。
行けるところまで行ってみた。
手前には豊国丸殉職者の追悼碑があった。
手を合わせ、さらにその先へ・・・
ここまで来ると看板のようなものは無く、180度広がる大海原だけが最果てであることを感じさせる。
さ、引き返す。
結構な距離を歩いて下ってきたので、再び戻るのは結構な運動量となった(汗)
帰り際にえりも岬観光センターへ立ち寄る。
ここでの一押しのお土産は「生まつも」という名前で売られている貴重な海藻。冷蔵庫内で売られているが常温保存可能で、塩抜きして味噌汁に入れると大変美味。
ちなみに、金魚の水槽に入れる「まつも」とは別物らしいので、ご安心を(?)
この日はえりも中学校の生徒が行燈行列として襟裳岬まで歩く行事が開かれていたそうで、しきりにアナウンスがされていた。
調べてみたら、中学校から灯台まで13km!徒歩では3時間ほどかかるらしくてビックリ!
襟裳の春は何もない春らしいが、秋は観光客で賑わっているし、行事も開かれているので何も無いってことはないみたいだ。
さて、襟裳岬に別れを告げ、宿のある十勝川温泉へと向かう。
R336黄金道路を引き返し、R236→d15と繋ぎ音更町を目指す。
夕暮れ時が迫る圧倒的スケールの十勝平野を、淡々と走り続けた。
そして日没を迎える直前、十勝が丘展望台へと辿り着いた。
ロードバイクで駆け上がってきた数名の若者の先客がいた。
夕日に照らされた十勝川が美しく、日が沈み切るまで眺めていた。
今日の宿は十勝川温泉 笹井ホテル。
十勝川温泉の中でも歴史がある老舗の温泉旅館で、とても立派な建物だ。
それに、十勝が丘展望台のすぐ下にあるので、今日は日没後に動物に怯えながら走る必要もない(笑)
夕飯はビュッフェスタイル。
どれもこれも地元食材をふんだんに取り入れており、とてもハイレベルで美味。
温泉は急遽設備故障の影響で男女入れ替え制となっていたのは残念だが、それは仕方がないこと。
日本でも有数のモール泉は言うまでもなく気持ちよく温まり、心ゆくまで堪能できて大満足の1日となった。
(続く)