欧州の想い出 「憧れる」 -Day 8-
フランクフルトの宿を離れ、フランクフルト空港へ。
この旅では3カ国目となる、いよいよスイスに渡るのである。
12:40発のルフトハンザ1218便に搭乗し、ジュネーブ空港へと向かう。
飛行時間は1時間ちょっと、日本の国内線に乗るような感覚である。
しかしながら、スイスに近づくに連れ、飛行機の窓から見える景色は圧巻の美しさである。
冠雪の山々が遙か先まで続く光景は、日本では決して見ることのできない風景の一つだ。
本物のアルプス山脈はやはり桁違いである。
日本アルプスはそれはそれで美しいのだが、わざわざ同じ名前をつけるから比べられる羽目になるのだ…。
ジュネーブ空港から市街までは若干の距離があるため、鉄道を使うことになる。
鉄道といえばスイス、スイスといえば時計、そしてスイス鉄道といえばこの時計である。
ハンス・ヒルフィカーによって生み出されたスイス鉄道の時計は、シンプルながら洗練され、遠くからでも識別しやすい優れたデザインもiOS 6の時計アイコンにパクられるなど有名なのだが、それよりも最大の特徴は「Stop To(2) Go」という独特な動作機構にある。
「Stop 2 Go」は文字通り、秒針が約58秒で1周し、12時の位置で約2秒間停止するのだ。
この理由は、1秒ごとに時刻を補正するのではなく、各駅にある全ての時計に対して1分おきに同時に補正信号を与えているためだ。そしてその信号を受信した時計は分針を1目盛進めると同時に秒針が回転動作を再開する。
こうすることで、各駅にある全ての時計をシンクロさせ、かつ正確に時を刻めるようになっているのだとか。
もちろん、現代技術をもってすればこんな機構を設けなくても正確に時を刻むことは容易いだろう。その上、秒単位でダイヤが組まれている日本の鉄道では成立しないシステムである。
それでも、こうして今でも残されているというのがなんとも浪漫を感じさせるではないか。
そもそも、秒単位でまで正確に生きる必要がどこにあるのだろうか?世界一正確に運行される鉄道は素晴らしい技術に疑う余地は無いとしても、果たしてそれは本当に幸せなことなのだろうか?
この浪漫あふれる機構を見て、そんなことを考えていた。
ジュネーブという街はすごい場所である。
永世中立国スイスという国の一つの都市であるわけだが、ジュネーブには国際機関の本部が多くある。
まず、国連欧州本部はこの街を拠点としている。ここには世界179カ国の代表部が置かれ、国連開発計画(UNDP)、国際労働機関(ILO)、世界保健機関(WHO)などの国際機関が38、さらに非政府組織が420ほど存在しているのだ。
まぁそんなことは日本から来た学生の観光客にとってはあまり関係は無くて、目の前に広がる美しい湖の方が重要である。
ジュネーブはレマン湖の南西端に位置しており、三方をフランス、一方をレマン湖に囲まれた立地である。
周囲は美しい山脈に囲まれているため、この季節はアルプスからの雪解け水がレマン湖に流れ込んでいる。そのため、湖の透明度は極めて高いのだ。
中央ヨーロッパ最大の面積と水量を誇る湖で、ケルト時代の言葉で「大きい=Lem」+「水=an」から、フランス語で Léman(レマン)と名付けられたそうだ。
スイスではあるが、ジュネーブはフランス国境にほど近いため基本的にはフランス語圏である。が、ジュネーブ州の人口の4割ほどが外国籍であるため基本的に英語も通用する。
国際都市であることもあり、極めて治安が良いのも特徴である。
純粋に”透明度”という指標で言えば、ここよりも透明度の高い湖は世界中にいくつもあるだろうが、”Geneva”という市街地にあるというのが特別であり、アルプスの雪解け水というのが特別であり、それらがより一層美しく感じさせるのだ。
明後日は1日ジュネーブ観光として確保しているのだが、あまりの美しさに居ても立っても居られなくなり、旧市街を少し歩くことにした。
途中、GLOBUSというデパート?の1Fがフードコート的になっており、食事をとることにした。
ごくごく普通のピラフと、500mLのコカ・コーラである。
が、価格に注目。
コカ・コーラが5.00CHF(約550円)、ピラフが13.50CHF(約1500円)なのだ(汗)
スイスは世界一物価が高いことは有名だし当然覚悟の上であるが、早速の洗礼である。
日本にいる感覚でうかつに雰囲気の良さそうなレストランにでも入ろうものなら、数万は覚悟せねばならない…。
まぁ、そうは言ってもここはジュネーブだ。
不思議と気分は良い。なぜなら”Geneva”だからだ。
自分の好きなブランドやメーカーの品を買う時だって同じだろう?
少しばかりの旧市街を探索し、宿へと戻る。
COOPに立ち寄ればよりどりみどりのチーズがあるのは、まさしくスイスの光景に思える。少なくとも、ナチュラルチーズがここまで豊富に並んでいて量り売りしてくれるスーパーマーケットは日本にはそうない。
名だたる時計メーカーが輝く街、ジュネーブである。
いくら気分が良くても、無い袖は振れないのもまたジュネーブである。
地球上で最も偉大な時計メーカー、パテック・フィリップの本店を前にすると感慨深いものがある。
1853年から、レマン湖の辺りであるこの場所で数々の名作を生み出してきたのだ。
経済的にも当然買えるわけ無いのだが、それ以前に身に付けるにあたり相応しい人格というものが必要である。
圧倒的な名前を前に、畏敬の念を抱かざるを得ない。
この光景を目に焼き付け、宿へと戻った。
(続く)